3年間にわたる科学研究費補助金を得て、質的研究方法を看護学の学位論文の評価基準作りに取り組んできた。わが国においては修士課程における質的研究方法の教育プログラムの実態調査を行い、国外においてはカナダおよびアメリカ合衆国における論文指導と審査の実態調査を行った。国内外の文献検討とこれらの結果を統合して、学位論文の審査基準だけではなく、審査委員会のあり方、指導体制のあり方に関するガイドラインをも提言し、平成19年に行われた第27回日本看護科学学会学術集会、さらに学術誌上で発表予定である。 本研究において、研究の指導と評価は密接に結びついた一連のプロセスであり、このあり方に関与するためには、単に生産物としての質的研究論文に評価基準を適用するにとどまらず、論文作成のプロセスから、目的に向かって一貫した指導を行うことが必要であることが明らかになった。論文の評価基準は、すなわち指導の目標であり、これについて看護学の指導者に広く合意形成を行うためには、目標となる学位論文の実例を効果的に示し、優れた論文が備えている要件を具体的に知る作業が不可欠である。本研究の成果を看護学の研究者と指導者に広く周知し、共有しながら論文指導の具体的事例をリアルタイムで示すことによって、より効果的に看護学における質的方法論を用いた学位論文の作成のための指導方法を提案することが今後の課題である。評価の焦点を共有することは、質的研究方法の発表の形態や結果の共有の方法についての議論を引き起こすこととなり、看護学の発展に大きく貢献すると考えられる。
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