平成20年度は、平成18年度、19年度に得られたデータを総合的に分析することにより、高齢者の口腔保健行動を促進するアプローチを検討した。 主訴や自覚症状と疾患の関連を検討したところ(坂下ほか、2009)、自覚症状をもつ人は、未処置齲歯、歯周病、欠損歯のリスクが有意に高く(p<0.01〜p<0.05)、自覚症状を手がかりとして口腔の問題に対処することは有意義であると考えられた。主訴や自覚症状があるものは、口腔清掃をよく実施していたが(p<0.05)、自覚症状がある人は口腔疾患のリスクが高いにもかかわらず、歯科受診に対して消極的な回答をした人が多かった(p<0.05)。 好ましい保健行動として、(1)口腔清掃行動(高い効果):歯間ブラシ・デンタルフロスの頻回な使用、歯みがき時間を充分にとる等、(2)受診行動(中程度の効果)(3)禁煙(歯周病に対しての効果)(4)食生活(歯周病に対しての弱い効果):甘いもの・間食を控える、お茶をよく飲む等がみられた。 口腔清掃を促進する要因として、<ホジティブな信念><アドヘレンス><口腔健康への自信>などがあり、年齢、高血圧などの身体状態は抑制要因として考えられた。受診行動を促進するものとしても<ホジティブな信念><アドヘレンス><口腔健康への自信〉などの認知的変数が認められた。 本研究を通じて、口腔健康に関してのホジティブな信念を育成する働きかけ、口腔健康への自信がもてるような援助が重要であることが示唆された。好ましい口腔保健行動を援助するためには、年齢や性別などの特性を考慮しながら、どのような要因が口腔保健行動を推進するのか、今後は経時的な研究を有ない詳細に検討していく必要があると考えられた。
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