研究課題
本研究は平成13(2001)年に中国江蘇省泗水の前漢の墓(泗水王陵)から発見された彩色水浸文物の保存を通して、文化財保存に関する国際的な研究交流と技術開発を行うと共に、保存技術に関する技術移転をはかることである。特に、世界的に見ても例がない彩色を残した泗水王陵出土水浸木製文物の保存について、研究代表者が開発した「糖アルコール含浸法」を適用しながら、材質・技法の解明と安全な保存処理法の開発を行い、中国国内への技術移転を図ることを目的とした。泗水王陵から出土した木質文物は飽水状態にあり、主として桐材を使用しているために、木材自体の強度が弱く、木材細胞の劣化が著しい。しかも、木製文物の表面には、水浸で発見されたにもかかわらず彩色を残していた。さらに、木質の表面には漆・金属・顔料などの異なる材料が複合していた。これまで、中国国内では水浸出土木材の保存にはポリエチレン・グリコール(PEG)を使う方法が多く使われてきた。しかし、彩色顔料や漆・金属などが残る木材の保存には不適当とされてきた。いっぽう、糖アルコールを使った保存方法は金属に対する腐食性もなく、保存処理後も木本来の色調が維持される特徴かある。本研究はこの特徴を生かして水浸文物の保存に役立てることを目的として研究開発を進めた。その結果、含水率の高い劣化した桐材に対して安全に保存処理する方法を確立することができた。また、中国南部地域特有の木材について、含水率や樹種の違いによる含浸時間の相異を明らかにすることによって保存処理の効率化を図った。本研究では、中国江蘇省で発掘調査された泗水王陵出土の水浸木製文物の保存について、中国側の研究協力者との情報交換や研究協力を進めながら、文化財の保存処理技術を中国に技術移転することに成功した。
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水浸木製文物の保存科学的研究-中国江蘇省泗水王陵出土文物保存に関する共同研究-(福岡印刷)
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ICOM Committee for Conservation 15^<th> Triennial Meeting, INDIA New Delhi Vol. 2
ページ: 1074-1081