本研究は、ケニアにおける開発と伝統文化の関係を、女性の社会進出にターゲットを絞って考えていくものである。まず、ケニアのイスラム地域を対象として、伝統文化の中のジェンダー格差を当事者である女性たちがどのように排除しようとしているのか、その取捨選択のメカニズムを明らかにするのが第一の目的である。また、教育の機会を奪われ、民族語しか話すことができない女性たちが、社会進出を果たすことができるかどうかについて、農村部における開発プロジェクトの中で、民族語だけを話す女性たちがどのような地位におかれているのかを調査し、社会開発と言語選択の問題をジェンダーの視点から明らかにすることが、第二の目的である。 今年度の戸田の現地調査では、ケニアのソマリ人居住地域における草の根の女性への聞き取り調査を行った。母親の世代には結婚前から現在までの過程を、中等教育を受けている娘の世代には学校生活について、高校の女性校長と女性教員には、この地域の女子教育が抱える問題点について詳細に質問した。また、これまでの研究成果を、日本平和学会編『グローバル化と社会的「弱者」』(『平和研究』第31号)に「アフリカの女性性器切除と男性優位社会の秩序」として掲載した。 宮本の現地調査は、ケニアにおけるろう者の女性の社会的立場に関する研究について、ナイロビ大学のOkoth Okombo教授と研究協議行い、関係資料の収集、ろう学校の見学、聞き取り調査を行った。聞き取り調査では、学校教育を受け、比較的成功しているろうの女性たちを対象に彼女たちが置かれてきた伝統的な状況と成功の鍵となった教育について詳細に質問した。この調査の結果は、2007年7月に開催される第15回世界ろう者会議(15th World Conference of the World Federation of the Deaf)で採択され、発表する予定である。
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