戸田は、ケニア共和国北東州ガリッサ県を調査地として、主要民族であるソマリ人(イスラーム教徒)の女性たちが、女性蔑視の慣習によって、教育の機会を奪われ、結婚後も、社会においても家庭においても発言権のない状況を調査してきた。今年度は、これまで行ってきたインタビューの結果をまとめ、女性のエンパワーメントを阻害する女子生徒の中退の原因は通常言われているような貧困問題だけではないこと、たとえ授業料負担がなくとも伝統的な考え方や早婚などの慣習によって中退させられる女子生徒が多いことを明らかにした。そして、中退者を減らすことにより、将来この地で活躍できる女性教員、女性看護師・助産師、女医が生まれる可能性が高まり、社会の底辺にいるソマリ語しか知らない女性たちのエンパワーメントを助けることができるようになることも明らかにした。 宮本は、ケニア西部にある聴覚障害児童のための2つのセカンダリースクールの女子学生へのインタビューと、西部キスム周辺および首都のナイロビのろうの社会人女性への聞き取りの結果をまとめ、聴覚障害者に対する偏見と女子教育に対する偏見と女子教育に対する無理解とで、社会的に二重のハンデを背負っているろうの女性たちが、学校の教員(特に、校長などの管理職)や親の励ましによって、教育の機会を得、それによって、自分達の言語(手話)と文化(ろう文化)を獲得している様子を明らかにした。彼女たちにとっての第一言語(音声言語であれば「民族語」と同等の位置づけにある)は、手話であり、それは、ろう者の集まる場所でしか習得できない。そして、ろう学校で築かれたろう者ネットワークが、社会開発において大きな力を果たしている実態も、明らかになった。
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