今年は、モンゴル国と中国新疆地方での海外調査を集中的におこなった。モンゴル国では、井上が8月5日よりモンゴルに向かい、モンゴル国の研究協力者オチル、アルタンザヤーとともに昨年度のテキスト読解の成果を確認し、8月15日より吉田を加えて白樺樹皮が出土したモンゴル国西部オブス県と中部ボルガン県で現地調査をおこない、出土地点の確認と、周囲の白樺を用いた生活文化について聞き取りをおこなったが、この両地域とも白樺は生育しているものの、すでに白樺を生活に用いている実態は皆無に等しく、樹木を用いるにしても違う種類の樹木を用いていることがわかった。モンゴル国内では、この両地点での白樺使用の実態を探ることは困難であると判断し、次年度は場所を変えて調査することとした。中国新疆地方では、井上が8月24日から9月21日まで、中国の研究協力者エルデムトとともに、白樺原生林が存在するアルタイ地方、白樺樹皮が出土したホボクサイルとエメール地方、数多くのモンゴル語文献が蓄積されているイリ地方を調査し、アルタイ地方では白樺の樹皮・樹木を加工した生活用品が現存していることを確認し、それら所有者に聞き取り調査をおこなった。興味深かったのは、1940年代まで白樺樹皮や白樺の板に文字を書いていたことを確認できたことであった。ホボクサイル地方では、白樺樹皮文書が出土した地点を調査し、この地にも白樺が生育していることを確認したが、1940年初頭の国民党による大規模伐採以降、白樺が極端に減り、現在ではほとんど生活に使用していないことがわかった。イリ地方ではかつて白樺樹皮に経文を書いていたことを目撃した古老らにインタビューすることができた。
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