赤道付近の貿易風帯には環礁の島々が点在する。炭酸カルシウムの骨格をもつ造礁サンゴが海底から低潮位線ぎりぎりまで積み重なった生物起源の地形である。その礁原の上に、サンゴの破砕片や有孔虫殻が波浪の物理的作用によって打ち上げられ、その堆積物が低平な州島を形成した。人間の生存にとってはきわめて厳しい環境だが、環礁島民はそこで暮らすためのさまざまな工夫を土地に刻んできた。州島の現景観は、自然の営力と人間の営為が絡み合うことによって生みだした歴史的産物である。その歴史を通史として描くために、マーシャル諸島マジュロ環礁とツバルのフナフチ環礁をフィールドとして選択し、連携研究者である棚橋訓(お茶の水女子大)、吉田俊爾(日本歯科大)、茅根創(東京大)とともに現地調査を実施した。 マジュロ環礁では、環礁州島の地下にしみ込んだ海水の上に帯水する淡水レンズと人間居住の関係を探究するために、面積の異なる州島を複数選択し、植生調査と発掘調査をおこなった。その結果、大型で細粒堆積物からなる州島、小型で細粒堆積物からなる州島、小型で粗粒堆積物からなる州島で、人間の居住にとって重要な根茎類キルトスペルマやパンノキの分布に差異があり、居住年代も前者ほど古くさかのぼることを確認できた。フナフチ環礁では、ロンドン王立協会(Royal Society of London)によって19世紀終盤に記録されたフォンガファレ州島の微細な起伏を、第2次世界大戦以降改変された現景観のなかに確認するとともに、州島を構成する堆積物と文化層の有無を把握するために5カ所で試掘を実施した。その結果、陸上地形の形成史と人間居住史の拡大について所見を得ることができた。
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