研究概要 |
1. 研究の目的と課題:インナーモスト・アジアにおける中国陶瓷を調査し,14-15世紀における陶瓷交易の実態を,実証的に理解することが,本研究の目的である。21年度は,研究の最終年度にあたるので,研究の欠落している部分に焦点をあてた。すなわち,インナーモスト・アジアを包括的かつ広域的に理解するために,東南アジア地域から出土する元代青花瓷の実態を調査し,両地域の相似性と異相性を比較研究することを課題とした。 2. 研究の内容:東南アジア地域の出土陶瓷器は,考古学的資料としては欠陥をもっているものが多い。そこで第1に実施したのはフィリピン出土品のなかで,考古学的な組み合わせとして信頼性がおける資料を選別し,ルソン島のPangil遺跡出土品を析出した。元青花瓷とその他の中国陶瓷器の組み合わせが,モンゴル・カラコルム遺跡と比較でき,両者の相似性と異相性を解明する糸口を見出した。 第2に,インドネシアのTorwian遺跡から発見され,シンガポール国立大学アジア研究室に保管されている陶瓷器破片,約8.000片について0同大学と共同研究を実施した。この遺跡は,マジャパヒト王朝の首都であり,当該時期の東南アジア最大の遺跡であるが,出土陶瓷器についての研究が立ち遅れていた。今回,破片の全てを借用し,整理をおこない,報告書を刊行した。 3.研究の意義と重要性:インナーモスト・アジアの陶瓷貿易を理解するために,中国はもとより,少なくとも北東アジア・日本・古琉球および東南アジアの状況を,考古学的な資料として,研究者に広く活用できる環境を創り出すことをおこなった。アジア地域の複雑な構造を陶瓷器の交易研究だけで理解するようなことは不可能であるが,その第1歩として,資料集を刊行して,研究者が活用できる土俵を創出した点に本研究の意義があると考えている。
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