平成18年度の研究では、ロシア周辺国からロシアに大量に流入する出稼ぎ労働への支援事業を展開する非営利団体「移民センター」をとりあげ、三度にわたって事務所を訪問した。この団体は1993年に設立され、職員は10名(センター長はガヴハル・ジュラーエヴァ・カンジーロヴナ、3人の弁護士、1人の医師、3人から5人ほどのボランティア)ほどである。かれらは出稼ぎ労働者、なかでも中央アジア諸国からの移民労働者のさまざまな相談を受けつけている。かれらの労働条件は過酷なうえに、警察官からの賄賂の強要スキンヘッド・グループの襲撃の対象になることが多いからである。 たとえば2005年の訪問者を振り返ると、年間の訪問者数は6999人である。月平均の訪問者数は583人、多かったのは1月の678人、7月の677人、8月の662人、少なかったのは10月の471人であり、全体としては季節労働者が多くなる夏季の訪問者数が比較的に増大する。一日あたりの訪問者は20人ほどであり、職員が日曜日を返上して問題に対応している。 移民センターを訪問する人たちの相談内容としては警察官による暴行、海外旅券の紛失、労働手帳の没収、給料の未払い、医療費の補助、労働災害、行方不明者の捜索、遺体の自国への搬送などがあり、出稼ぎ労働者が直面する日常生活の諸問題が多様であることがわかる。自国の経済的な貧窮を逃れてモスクワにきているのであるが、かれらを待ち受けているのは多難な生活である。 移民センターを訪問する人たちが相談する内容でもっとも深刻なものは、行方不明者の捜索依頼と遺体の本国搬送の問題である。移民センターの内部資料によれば、行方不明者の捜索については2004年8月から2006年5月までの22カ月間に140件の依頼を受けつけている。1カ月あたりの平均は6.3件である。
|