本年度は研究課題を取り組むにあたって、論文執筆、資料収集・整理を行った。まず、前年度すでに取り掛かったテーマを2つの論文として完成し、駒澤法学に公表した。その過程で、6月30日国際法研究会(京都大学)にて「中国国内法における条約の効果と適用」を題とする報告を行った。また、中国と国際法という全体課題を見渡せるような具体的なテーマ構想し、資料収集、論点整理、論文執筆を中心とした研究活動を行った。7月24日から8月8日にかけて中国のアモイ、福州に訪ね、大学や研究機関の図書館で資料を収集すると同時に、国際経済法に関する中国国家の研究センターが置かれたアモイ大学の中国国際法学者との意見交換を行った。この過程で、中国の投資保護条約における国有化・収用の補償に関する理論と実行を取り扱うテーマについて資料収集を重点的に行った。また、12月26日から20008年1月にかけて北京にある中国国家図書館に訪ね、紛争の平和的解決や経済主権に関する中国の理論をテーマに資料収集を行った。 公表した論文のほか、執筆に入ったテーマは4つある。第1に、「中国のBITsにおける国有化・収用-理論と実行から読み取られるものは何か」である。これは、国有化・収用に関する原則に関する中国の姿勢変化を理論と実行から分析したものである。第2に、「中国における主権論争-開放政策と経済主権のはざま」である。これは、近年中国の理論界に生じた主権論争を開放政策の背景にどのように展開され、どのような理論的見識をもたらしているか分析したものである。上記第1テーマとも密接に関連する。第3に、「国際紛争の平和的解決についての中国の捉え方-事例の処理・評価を素材に」である。これは、米中軍用機接触事故や駐ユーゴ中国大使館誤爆などに関連して国際法がどのように使われ、紛争解決にどのような役割を演じているかを分析したものである。第4に、「国際裁判と中国」である。これは、これまで国際裁判に対する中国の基本姿勢に関する中国国際法学者らの認識を整理しながら、WTOや海洋法条約における国際裁判の受け入れが中国においてどのように受け取られているかを分析したものである。 最後に、2年間にわたって研究課題を取り組んできた結果、『中国と国際法-その開放政策30年来の理論・実行の軌跡』という一つの研究成果をより具体的に描けるようになり、今後の研究展開について明確の方向性をもつことができた。
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