最終年度であり、研究成果・最終成果の報告を中心に研究活動を行った。なお、補充調査をチベット自治区と青海省で行う予定であったが、周知の政治的混乱により入境・調査実施が不可能となった。そのため、急遽、補充調査地を新彊ウイグル自治区の実施可能な地域に変更し、調査内容も問題の生じない範囲に限定した。調査自体はほぼ所期の成果をあげることができたが、研究実施にかかわる諸作業に若干の遅れが生じることとなった。 先に述べた理由で、研究成果の図書としての出版には間に合わなかったが、これまでの成果は、欧米、中国、香港、日本の関連学会やシンポジウムで報告することができた。20年度の研究から得られた知見をまとめると下の通りとなる。 (1)中国の底辺階級の特性は、世界システムの周辺性から位置づけることができた。そのなかで、最底辺層は、少数民族地域の女性、子供という範疇から最も明確に把握できた。 (2)少数民族地域の底辺階級の価値意識が興味深い内容をみせていた。経済行為はあくまで生存や社会のために行われるべきとしていたことである。新たな発展のあり方を考える上では示唆的内容とみられた。 (3)価値意識との関連から新たな発展を考える上で鍵となる概念を析出できた。渾沌と曖昧さであった。これら概念は、底辺階級をめぐる問題解決のみならず、共存と調和の世界史的意義の再考や東アジアからの社会構想を考える上で決定的な意義をもつ。さらにこれらは、東アジアの視点からの社会科学のパラダイム転換にもつながり得るものであった。
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