本年度は、全体の研究テーマである国際移民の比較制度分析のモデル的事例を研究し、発表した。それが『大原社会問題研究所雑誌』573号に掲載された、「総合デカセギ業の誕生-日系旅行社の変容とブラジル日系コミュニティの資本蓄積」である。この研究では、日本とブラジルの間のデカセギ労働者の斡旋システム、とりわけブラジル国内におけるデカセギ就労希望者の募集の仕組みが、1980年代にデカセギが始まっていこうにどのように変容したのかを、時間の経過の中でデカセギ就労希望者の募集の仕組みを一つの制度と捉え、ほぼ5年おきごとにこの制度がどのような機能を果たしいかなる外在的条件によって成立していたのかを比較することで、制度全体の変容過程と変化の方向性をモデル化した。比較制度分析を取ることによって、制度が時代に合わせて(外部環境の変化に合わせて)自らを改編しつつ生き延びていくあり方を明らかにし、従来言われているデカセギ者の日本での定着化が起こらないことを明らかにした。 ただし、本研究はあくまでデカセギ就労者の斡旋システムの変容を示したに過ぎず、コミュニティそのものがどこまで変化したのか、という点にまでは踏み込めていない。この点は、論文中にも書いてあるように、次年度以降の課題として残されている領域である。このように本年度の研究は、比較制度分析が日伯間の人の移動の説明枠組みとして有効な枠組みであることを示すことに成功しているとも言え、19年度以降の現地コミュニティ調査で明らかにしなくてはならない課題もまたはっきりした。 上記の、日伯間の具体的な移民制度の研究の他に、先進国における移民の現状に関する研究も文献研究ではあるが行った。
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