ブラジルでの聞き取り調査の継続を通して、リーマンショック後の日本の製造業がどのようにブラジルでの出稼ぎ労働力集めをしていたのかを、日系旅行会社、サンパウロ領事館、そしてブラジルにある各県人会に聞き取り調査を行い、過去に聞いてきた動向が、どのように経済危機を通して再編されたのかを研究した。 世界同時不況の影響は、ブラジルの人集めでも如実に影響が出ており、多くの日系旅行社が店を閉めていた。しかし、このことは日系旅行社のリクルーティング能力が減少したことを意味しない。むしろ、旅行社が電話一本で行うブローカー業に変化することを通して、アンダーグラウンドに潜ったような状況になっただけであり、日本の経済活動が戻り始めると、再び旅行社が増加することが目に見えるような形になることが判明した。 しかしながら、旅行業は絶えず変化しており、とりわけブローカー業を中心とした日系旅行社がツーリズムに力を入れた観光旅行社の顔を持とうと変化し始めているのは、大きな兆候であった。ここには、単に旅行社の生き残り戦略だけでなく、出稼ぎから帰国したかつての日本就労者がもちこんだ新しい価値観、エコツーリズムの影響が大きく見て取れた。ブラジルにおけるエコツーリズムの最先端を出稼ぎ旅行社が担う、という出稼ぎをつうじたトランスナショナルな価値の伝汎の一形態を見いだすことのできる現象を捉えることができた。
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