本年度は、研究最終年度であり、研究目的にしたがって、(1)ベトナムでは未だ制度化されず萌芽的な活動にとどまっている就学前の療育活動・療育相談、(2)障害児の生活支援に関わる関係機関・施設・団体による地域福祉実践、の実証的な把握とその課題を明らかにすることに務めた。具体的には、研究成果の一部報告として、ベトナムから研究者を招へいし、学術シンポジウムを開催するとともに、昨年度までの補足調査(当該機関への訪問調査)を行った。4年間の研究成果として、紙媒体の研究報告書を作成した。 本研究の意義は、知的障害児と家族の福祉ニーズと福祉活動、地域生活支援、保護者と家族の当事者活動との具体的かつ構造的な関連と課題を明らかにする点であり、次の4点に集約される。 第1は、教育保障および母子保健制度に関連する課題であり、知的障害児学校や学級、教員、専門家の不足が主要な要因である。就学への移行としての早期介入の遅れも大きな要因である。第2は、早期介入の国レベルの制度化と早期介入活動の実践的・理論的内容に関わる課題である。障害概念の定義やその診断方法(特に知的障害)、発達検査による子どもの発達状況の把握に課題がある。第3は、地域生活支援についての課題であり、障害児者福祉については現金給付や施設福祉、地域福祉レベルとともに、質、量ともに拡充に向けた課題が大きい。第4は、各機関では療育・実践が中心であり、親・保護者支援、生活支援という地域福祉の課題に至っていない点である。ベトナムでは地域福祉そのものが萌芽的であり、保健・医療、福祉、教育の統合的・連携的な展開が期待される。 本研究を通じて、以上の成果を得たが、今後の研究課題は、生活格差の進行するベトナム社会において、貧困問題と障害者問題との関連から研究を進めること、また、進路保障や就労保障という「学校から社会への移行」に関する研究が必要であるという認識に至った。
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