研究概要 |
本研究は中国と日本に残されている照葉樹林の構造と機能を比較観察し,その異同と人為的影響を植物学的に明らかにすることを通じて,照葉樹林の持続性を考える科学的根拠を提供することを目的としている.平成20年度は,中国では福建省武夷山世界自然遺産地域と雲南省西双版納自然保護地域で,日本では鹿児島県屋久島で調査を行い,特に照葉樹林林床の主要構成要素であるシダ植物に着目して,種組成,種多様性,種分化の解析を行った. 武夷山地域では,平成19年度に引き続きシダ植物の採集を行い,計538点の標本をもとに形態観察・同定を進めた.その結果,27科60属214種が認められ,うち日本固有種と考えられていたナンピイノデについて細胞学的観察から有性生殖2倍体であることを確認した.このほか,24種のシダ植物についての細胞学的観察の知見,16種のシダ植物についての走査型電子顕微鏡を用いた胞子形態観察の知見をまとめた. 西双版納地域では,照葉樹林の破壊後に成立したカバノキ科の樹種(Betula alnoides)が優占する二次林で,シダ植物の種組成と種多様性の調査を行い,照葉樹林との比較解析,二次林の構造・動態解析を行った.その結果,二次林では照葉樹林と同程度の種多様性が回復している一方,種組成には差異のあることなどが明らかとなった.また,B.alnoidesの幹数は時間の経過と共に減少していくこと,当樹種は閉鎖林冠下では個体群を維持できないことなどが明らかとなった.屋久島では,照葉樹林の伐採跡のスギ人工林において植生調査を行い,照葉樹林との比較解析を行った.その結果,スギ人工林は照葉樹林と比較して,照葉樹林構成種や様々な生活形で種多様性が小さいこと,種組成にも差異があることが明らかとなった.これら国内外で得た結果は,伐採・開発・人工林化といった人間活動が照葉樹林に及ぼす影響やその回復過程で生ずる組成・構造変化の解明に寄与するものであり,重要かつ有益な知見である.
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