本研究では、日本向けのアスパラガス栽培に特化した村でのアスパラガス作が環境にどのような負荷をもたらしているのかを評価しようと試みた。タイ国ナコンパトム県ナコンパトム郡ノングールアム村では、14年前からアスパラガス栽培を行ってきた。現地は年平均気温26℃、降水量1000mmで、当時、灌漑水路が整備されたところであった。この地方ではアスパラガスの収穫は周年可能で、2ケ月収穫1ケ月休止の3ケ月サイクルで毎年4作の収穫を行う。このため窒素施肥が重要な作業で、周年栽培の影響もあり、1 haあたり400〜1000kgの窒素を15-15-15の高度化成肥料として施用していた。アスパラガス収穫物として耕地から持ち去られる窒素は施肥窒素の約4%程度で、96%の窒素は畑に残存した。使用開始8年のアスパラガス畑の地下部をボーリングして深さ1mまでの土壌を採取して硝酸イオン濃度を測定したところ、地表とほぼ同じ濃度の硝酸イオンが地下100cmまで検出された。しかし1.2mくらいで消失しており、この深さは地下水位と一致した。村内の掘り抜き井戸26本から地下水を採取して硝酸イオン濃度を測定したところ、ほとんどの井戸から飲用に適さないとされる10ppm以上の硝酸態窒素を検出した。この科研費を受領した4年間にわたって地下水硝酸態窒素濃度を追跡したところ、地下水の硝酸態窒素はゆっくりではあるが次第に低下しつつある。化学肥料の価格高騰と有機栽培への移行が化学肥料減肥をもたらしたのかもしれない。土壌の残留農薬についても定量を行ったが、クロルピリフォスやアバメクチンは痕跡程度しか検出されなかった。熱帯の気候条件では分解が速いと推測した。
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