研究概要 |
メナイ海峡を五つの海域に区分し,超音波流速計を装備したウェールズ大学バンガー校海洋科学部が所有する海洋観測船を使用して,航走流動観測,CTD観測,採水を2007年5月に実施した。観測は潮汐による半日周潮を除去するために,14時間連続して平均8回のグリッド往復観測を,日本側からは3名,英国側からは5名の研究者が交代で乗船して行った。また,ムール貝をそれらの海域の十数点で採取し,ろ過した海水中の懸濁態有機物とともに炭素窒素安定同位体比を計測するために日本に持ち帰り,東京大学海洋研究所のコンフロシステムを用いて分析を行った。 その結果,海峡内のうち,musselbed上で,最も高いクロロフィル濃度が観測され,この最高値が観測された直後,潮流が緩やかになり塩分温度躍層の発達とともにクロロフィル濃度の急速な低下が認められた。クロロフィル濃度最高値が観測されたとき,musselbed上では海峡北東口から海水が流入していたことから,干潟で生産された底生藻類が乱流によって巻き上げられた可能性があることが分かった。また,干潟で生産された底生藻に滞留状態となり,植物プランクトンがヨーロッパイガイの摂食活動によって枯渇する可能性も示唆された。一方で,ムール貝の安定同位体比を比較したところ,プロット領域が一致しない海域が見出され,海域によって餌料環境が異なることが示唆された。また,ムール貝の餌料と考えられた海水中の懸濁態有機物とムール貝の安定同位体比は一致しなかったことから,ムール貝は懸濁態有機物を単一の餌資源として利用していないことが推察された。この結果をうけて,今後は底生珪藻の採取と分析を実施し,これが餌資源として機能しているかの検討をすることとした。
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