本研究の目的は、東アジアのイノシシ属(野生イノシシと家畜ブタ)の起源が、インドネシアにあるとの仮説を証明するため、インドネシアに生息する野生イノシシからDNAを分離し、アジアおよびヨーロッパのイノシシと比較することにより、イノシシの分子進化を明らかにすることである。本年度は生物多様性の面で極めて特異な存在として知られているインドネシア・シュラベシ島に生息するイノシシに関して詳細に解析し、インドネシアの野生イノシシの分布域と多様性を解析した。本年度の主な成果を下記する。 1. インドネシア・ボゴール大学の4名の教員と共に、平成20年11月2日〜6日までシュラベシ島を訪問し、現地の猟師と共に野生イノシシの試料を採集した。訪問期間中、17頭からDNAサンプルを得た。 2. 平成21年2月25日〜3月23日まで、ボゴール大学の若手教員2名を招聘し、シュラベシ島にて採取したDNAサンプルについてミトコンドリアDNA解析を行った。 2. 平成20度はシュラベシ島に生息する野生イノシシ50サンプルをDNA解析した。その結果、50サンプルは19のハプロタイプに分類された、また、形態とDNA分析から、シュラベシ島に生息する野生イノシシは、Sus scrofaではなく、Sus celebensisであり、系統的には大きく離れていた。 インドネシアの生物相はフォーレスラインをはさんで大きく二分される。今回のシュラベシ島のDNA分析はそれを検証したことになる。ただし、人の移動に伴い家畜化されたSus scrofaもフォーレスラインより東に持ち込まれた可能性もあり、次年度は、ヒトの移動に伴うSus scrofaの分布に関して検討する予定である。
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