本研究の目的は、東アジアのイノシシ属(野生イノシシと家畜ブタ)の起源が、インドネシアにあるとの仮説を証明するため、インドネシアに生息する野生イノシシからDNAを分離し、アジアおよびヨーロッパのイノシシと比較することにより、イノシシの分子進化を明らかにすることである。本年度はインドネシア・シュラベシ島の北部、中部、南部とパポアニューギニアに生息するイノシシに関して詳細に解析して遺伝的多様性を明らかにした。本年度の主な成果を下記する。 1.インドネシア・ボゴール大学の4名の教員と共に、平成21年11月2日~7日までシュラベシ島を訪問し、現地の猟師と共に野生イノシシの試料を採集した。訪問期間中、20頭からDNAサンプルを得た。 2.平成22年2月1日~2月18日まで、ボゴール大学の若手教員2名とガジャマダ大学の若手教員1名を招聘し、インドネシアにて採取したDNAサンプルのミトコンドリアDNA解析を行った。 3.シュラベシ島の北部、中部、南部に生息する野生イノシシ44サンプルとパポアニューギニアから4サンプルを採取しDNA解析を行った。その結果、合計48サンプルは27のハプロタイプの遺伝子型に分類された。この結果より、シュラベシ島に生息する野生イノシシSus celebensisは、極めて遺伝的多様性に富んでおり、家畜化の形跡は観察きれなかった。 本年度のシュラベシ島の調査により、シュラベシ島に生息するSus celebensisは、遺伝的な多型に富み地方集団を形成して人による家畜化の影響はみられなかった。インドネシアの生物相はフォーレスラインをはさんで大きく二分される。シュラベシ島を除いて、フォーレスラインの東に位置する島のイノシシはヒトの移動に伴いSus scrofaが持ち込まれた可能性が高いことが4年間の調査により検証された。
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