吸血コウモリが媒介する狂犬病の疫学的特徴を明らかにする目的で、ブラジルの広範囲な地域の吸血コウモリおよびウシから分離された狂犬病ウイルス(RV)計684検体の核蛋白遺伝子の系統解析を行った。ウシから分離されたRVの99%は吸血コウモリ由来株であり、さらにこれらの吸血コウモリ由来ウシ分離株は、非常に多様なサブ系統に区分された。サブ系統を地図上にマッピングしたところ、吸血コウモリ由来ウシ分離株のほとんどは河川流域に分布しており、同一河川流域に分布するサブ系統も観察された。またサブ系統の分布には地域性があり、地域分布の区分には山地が関与していた。吸血コウモリ分離株の地域分布は、同じサブ系統に属するウシ分離株のものとほぼ一致していた。以上より、ブラジルのウシ狂犬病ウイルスの疫学的特徴は、吸血コウモリの生態およびウシの飼養地域等、地理学的な要因に大きく影響を受けることが明らかとなった。 ブラジルに生息するコウモリ、すなわち吸血、食果および食虫コウモリから分離されたRV56検体を用いて系統学的解析を行った。コウモリ由来RVは宿主コウモリの種類に依存した複数の遺伝子系統を形成した。ブラジルのコウモリ由来RVは、少なくとも9つの遺伝子系統に区分され、これらの系統のうち、非吸血性のコウモリによって維持されている1系統は、アメリカ大陸の広範囲の地域に分布し、長距離を移動する食虫コウモリから分離されたRVと近縁であった。上記の吸血コウモリ由来RVの成績と合わせると、ブラジルには、他の地域のコウモリも関与する多様なコウモリ由来RVが存在しており、これらコウモリ由来RVは宿主コウモリの生態を反映した疫学的特徴を有していることが示唆された。
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