ブラジルの共同研究拠点であるサンパウロ大学および各地域の州立診断センターの協力を得て、吸血コウモリをはじめとした各種野生動物およびウシなどの家畜から分離した狂犬病ウイルス(RABV)を確保し、遺伝子および系統樹解析を行った。分離株の地理的分布を明らかにするために、分離場所のマッピングを行った。 ブラジルの各州から分離されたRABVウシ分離株666検体および吸血コウモリ分離株18検体を用いて吸血コウモリ由来RABVの分子系統学的および地理学的解析を行った。ウシ分離株の99.2%は、吸血コウモリ由来で、その他はイヌ由来株であった。系統樹の分岐パターンから、吸血コウモリ由来ウシ分離株は、分離地域を反映した多様な遺伝子系統に区分された。各系統の地域分布は河川周辺に認められ、また山脈で区分される傾向があった。 RABVの糖蛋白質に存在する333位のアミノ酸残基RまたはKは、成マウスに対する病原性の発揮に必要であり、この部位のアミノ酸残基の置換は、ウイルスの弱毒化または非病原性への変化を引き起こすと考えられている。この変異は、これまで固定株においてのみ認められている。本研究では、ブラジルの非吸血性コウモリから分離され、マウスに致死性を示すRABVにおいて、333位のアミノ酸残基の置換(333H、333Nおよび333Q)を発見した。 以上より、吸血コウモリ由来RABVは、分離地域を反映した多様な遺伝子系統を形成しており、ウシ狂犬病の疫学的特徴は、吸血コウモリの生態および地理的要因が深く関与することが示唆された。また、これまでに知られていないアミノ酸置換を有する病原性のRABV株が野外に存在していて、それらが感染環の形成に関与している可能性が示唆された。
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