研究概要 |
セミパラチンスクの被曝様式は、低線量でかつ慢性の外部及び内部被曝であり、広島の被爆様式とはまったく異なっていることから、MDS、急性骨髄性白血病(AML)など血液腫瘍の発生様式も異なっている可能性がある。我々は、原爆被爆者ではMDS発症のリスクが高いことを明らかにしている。さらに遺伝子レベルでは、造血幹細胞の分化増殖に重要な役割を果たしている転写因子AML1遺伝子の点突然変異を、MDS/AML(RAEB, RAEB-T, MDS-AMLをまとめて呼ぶ)に高率に見出した。かつ変異は、放射線誘発及び化学療法による二次性MDSでは本遺伝子内のN末領域に集中していた。またAML1変異を有する症例では、受容体チロシンキナーゼ(RTK)-RASシグナル伝達経路の遺伝子変異を高頻度に同定した。そこで、MDSと白血病の遺伝子レベルにおける原爆被爆者との比較を行い、被爆様式の違いによる異同を明らかにしようと試みた。最近10年間に収集したMDS・白血病の中で、遺伝子解析が可能であった症例を対象とした。AML1点突然変異は、骨髄あるいは末血よりDNAを抽出し、PCR-SSCP(single strand conformation polymorphism)及び塩基配列解析により同定した。線量は現地のカザフ放射線環境医学研究所のデータを参考にした。個々人の生年月日や居住歴等から計算され、外部被曝が総線量の80〜90%を占めている。MDS/AML18例中7例に変異を認めた。被曝線量別発生頻度は高線量群(300mSv以上)、中線量群(50〜300mSv)、低線量群(0.1〜50mSv)で、それぞれ2/2(100%)、0/4(0%)、5/12(42%)であった。一方非被曝(コントロール)群では0/11(0%)であった。また見出されたAML1変異の局在はすべてN末領域であった。この結果よりセミパラチンスクの被曝においても原爆被爆と同様な遺伝子変異を造血幹細胞に誘発し、MDS/AMLの発症をもたらすことが推測された。
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