マラリアは世界中で年間2-3億人の感染者、150万人の死者を出す重大な感染症である。最も重篤な症状を起こす熱帯熱マラリア原虫に比べて、死亡率が高くない三日熱マラリアは、優先度が低く見られがちであるが、他の感染症との合併による間接的な死亡や体力低下に伴った生産性の低下による経済的損失が多大で、東南アジアを中心に非常に問題となっている。マラリア原虫はヒト体内では赤血球内で増殖するが、熱帯熱マラリア原虫は感染した赤血球の表面に原虫由来の接着物質を発現し、脳の末梢血管内壁に接着することで重症化し、また、未感染の正常赤血球にも接着し(ロゼット形成)、病原性を高める。一方、三日熱マラリア原虫を含む、他のサルやネズミに感染するマラリア原虫種もロゼット形成を起こすため、ロゼット形成はマラリア原虫の哺乳類宿主体内で重要な役割を果たしていることが予想される。ロセット形成に関与する三日熱マラリア原虫のリガンドは、ゲノム上に約300のメンバーを持つ"Vir"と呼ばれるタンパク質や"Vir"と非常に近い構造をもち、ゲノム上に2つのメンバーがある"PvSTP"と呼ばれるタンパク質と予想されている。本年度は、300のメンバーがあり、個々の遺伝子座ごとの解析が困難なVirに比して、PvSTPが2つのメンバー(PvSTP1とPvSTP2)しかゲノム上にないことに着目し、PvSPについて解析を進めた。PvSTP1とPvSTP2の細胞内・細胞外領域の組換えタンパク質を作成し、ELISAにてこれらの組換えタンパク質に対するタイの流行地患者血清の反応性を確認することができた。また撫本の作成を試み、PvSTP2の細胞外領域に対する抗体を得ることができた。この抗体がロゼット形成阻害活性を有するかどうかの計画を策定した。
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