研究概要 |
フィリピンにおいては、セントルークス医学センターのNatividad博士、De Guzman博士らにより当付属病院消化器内科で異なる胃疾患53患者の胃から内視鏡により採取された69サンプルを用い、ヘリコバクター・ピロリを分離後、それらの遺伝子型(16srRNA and glmによる本菌の遺伝学的同定;cagAおよびvacA遺伝子多型)を調べている。タイにおいては、マヒドール大学熱帯医学部Manas Chongsa-nguan,教授との共同研究として、種々の胃疾患患者由来のヘリコバクター・ピロリを分離分離し、フィリピンのグループと同様なプロトコールによる遺伝子多型の検索を依頼した。日本においては、H.pyloriが産生する空胞化致死毒素(VacA)によるシグナル伝達系p38 MAPKと、p38 MAPKによる転写因子ATF-2の活性化が、炎症反応に関わるプロタグランジンを産生する誘導型シクロオキシゲナーゼ-2の発現を如何に誘導するかについて究明した。その結果、COX-2 mRNAはVacAの処理時間及び処理濃度に依存して増加した。このVacAによるCOX-2 mRNAの増加は、p38の特異的阻害剤による処理、若しくは、dominant-negative p38(DN-p38)強制発現により顕著に抑制された。次に、VacAによるCOX-2の転写活性に及ぼす影響について、COX-2プロモーターを繋いだルシフェラーゼ遺伝子(COX-2 reporter遺伝子)を用いて詳細に調べた結果、VacA処理により、p38経路を介して活性化したATF-2がCOX-2 promoter領域のCRE配列に結合して転写が亢進し、COX-2の発現が誘導されることが分かった。さらに、細胞培養上清中に産生されるPGE_2の産生量が、VacAの処理時間に依存して増大し、COX-2特異的阻害剤及びDN-p38発現の強制発現により著明に抑制された。また、このようなVacAの作用が胃のみならず大腸由来細胞などにおいても著明に認めらたことから、本菌の長い持続感染の間に胃のみならず下部消化管の疾患ともVacA毒素の毒性が影響する可能性を示唆していた。VacAについてはm1およびm2タイプによる違いを究明している。
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