研究概要 |
ロタウイルスワクチンが世界各地で使われ始めた。ロタウイルスには15の血清型があり,防御免疫は血清型特異的である。ワクチンをあまねく使うことによって,ロタウイルスの血清型の分布がどう変化するのか,また,従来動物に多く見られた血清型がヒトの世界に出現するのか。本研究は,ワクチンによる下痢症制圧の世界戦略上,緊急かつ重要なこの2つの問題の解明を目的とする海外調査である。 ブラジルは毎年生まれる400万人の乳児全員にロタウイルスワクチンを接種することを決定しており、本研究の目的に最適な国である。ブラジルの中東部の大都市レシフェにある小児病院は、長崎大学と熱帯感染症の教育・研究の両面で学術交流協定を締結しているリバプール大学が海外拠点としている病院である。本年度の研究では、リバプール大学にブラジルでの研究協力者を招き、リバプール大学の研究者とともに、ワクチン導入前にあたる2004-2005の1年間にロタウイルス下痢症患者から得られたロタウイルス株の性状(遺伝子型)について解析した。 ロタウイルスは290検体中、35%に相当する102検体で検出された。G1P[8]株が49%を占める一方、新興株であるG8P[6]およびG9P[8]が、それぞれ2%および29%にみられた。これらの新興株は分離培養後、長崎大学に持ち帰りRNA-RNA hybridizationによる詳細な解析を行った。その結果、ブラジルのG8P[6]株はマラウイの株と高いホモロジーを示す一方、G9P[8]株はインドのG9P[8]株によく似ていた。この結果から、ウイルス株によっては予想以上の広がりをもって世界的に分布していることが分かった。このような新興株の世界的拡散はワクチンにとって障害となることが懸念される。
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