研究概要 |
当研究課題におけるいくつかの具体的な問題について並行して検討を行ってきたが、その中で、二つのi.i.d.(独立定常)量子状態の仮説検定問題を中心にいくつかの成果が得られた。この問題の古典版、即ち二つの確率分布p, qのi.i.d.拡張に関する仮説検定問題の漸近特性は対数尤度比log(p/q)に関する大偏差型評価を求めることによって決定され、その結果はHoeffdingの定理の名で呼ばれている。この大偏差型評価にはpとqを結ぶ1次元指数型分布族をめぐる情報幾何学的状況が深く関わっており、本研究課題の問題意識と密接に関係する。Hoeffdingの定理の量子版は永年の未解決問題であったが、2006年中に、まず関連問題である「量子版Chernoffの定理」がNussbaum and Szkola(LANLE-print quant-ph/0607216)およびAudenaert et al.(quant-ph/0610027)によって解決され、その手法を拡張することによって、Hayashi(quant-ph/0611013)およびNagaoka(研究代表者)(quant-ph/0611289)によって「量子版Hoeffdingの定理」も最終的に解決された。 上記の理論的成果に加えて、量子仮説検定問題の数値シミュレーションに関する研究も行った。古典的な場合にはモンテカルロ法などを用いることによって効率的な計算が可能であるが、量子仮説検定問題では系の規模に関して指数オーダーのサイズを持つ行列の固有値問題を解かざるを得ず、そのシミュレーションは困難だと考えられてきた。これに対し、表現論における既約分解の考えを用いたアルゴリズムを開発することによって、漸近特性が観察される程度にまで規模の大きなシミュレーションが実行可能であることを示した(堂嶋・片桐・長岡,SITA2006)。 この他に、Yapage and Nagaoka(AQIS 2006)では量子ボルツマンマシンの指数型分布族的な側面を情報幾何学的観点から考察し、それを平均場近似の問題に適用した。また、古典および量子仮説検定問題の情報スペクトル的考察に関する論文(Nagaoka and Hayashi, IEEE Trans.IT)が出版された。
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