本研究の目的は、人間の認知特性を利用することにより、情報・通信システム利用時に通信ネットワークの遅延のように物理的に取り除けないコミュニケーションの阻害要因がある場否でも、その影響を軽減する方法を開発すること、および遅延が与える影響を明らかにすることである。 基本的なアイディアは、遅延を伴う音声対話において、相手の反応待ち時に遅延により生じる不自然な間に、会話内容と意味的に無関係な信号で被せ間を埋める事により、遅延の影響の軽減を図るというものである。平成19年度は、前年度までの検討で最も有望と判断された、桃色雑音を小音量で被せて間を埋める方法について検討した。提案法の評価実験では、被験者に音声認識システムに正しく認識される発音の学習を課題とし、正誤のフィードバックに遅延を入れ、桃色雑音被覆の有無による正認識率を比較じた。名詞単語を学習課題としたが、単語により正認識されやすさにばらつきがあり、また被験者による個人差もあることから、実験を2フェーズに分け、まず使用単語を発音させ、認識率が揃うような刺激セットを構成し、その刺激セットを用いて学習実験を行った。この方法により学習の効果をより明確に捉えられるようになった。平成20年度には、この方法を用いて本格的な検証実験を行う。 また、音声と映像の時間的ずれの検出と違和感の発生に関して、異なる言語の刺激を用いて検討した。音声と映像の時間的ずれに関しては、一般に映像の遅れに関しては鋭敏である(厳しい)のに対し、音声の遅れに関しては鈍い(寛容である)ことが知られている。ところが、外国語では影響のパタンが異なることが明らかになった。英語やロシア語ではずれに関してやや甘くなり、ずれの非対称性も小さくなった。ところが、外国語であっても韓国語の場合、日本語と似たパタンとなった。この結果は、言語の音的類似性AND/OE話者の顔がずれの認知に影響を与えていることを示しており、洋画の吹き替えは違和感が小さいのに、韓国映画の吹き替えに大きな違和感が生じることともつながっている可能性がある。
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