本研究では、ネットワークを介して視覚・聴覚・触覚を生中継するという多種メディアストリーミングにおける品質保証技術の確立を目的に掲げた。まず、視覚・聴覚・触覚の再生遅延時間を独立に調整可能とするために、各々の伝送に異なるネットワークインフラを利用した感覚伝送システムを構築した。これを用いて、再生遅延時間を変化させながら遠隔操作を作業内容とする評価実験を実施し、人間の知覚が各々の感覚の再生遅延をどれほど許容できるかを実験的に調査した。その結果、(1)人間は視覚に強く依存して作業するにも関わらず200ms程度までの遅延は許容できること、(2)触覚は50msの遅延を与えただけで極端に作業に悪影響を及ぼすこと、(3)遅滞なく聴覚情報を与えることで作業を効果的に支援できること、(4)遅延の長い視覚情報に対して遅延の少ない装飾器を挿入することも効果的であること、などが明らかになった。以上のことから、遠隔操作を行うための多種メディアストリーミングにおいては、メディア毎に通信遅延の要件が異なることが実験的に明らかになった。次に、このような今までにない複合型の品質保証を通信ネットワークにおいて実現するために、地球規模のオーバーレイネットワーク実験環境であるPlanetLabを利用してマルチパスルーティングによる品質保証技術を開発・実装し、性能評価試験を行った。この結果、マルチパスルーティングを活用することにより、ある送受信端の間に様々な通信性能を保証する接続を並列して提供できることが示され、遠隔操作を行うための多種メディアストリーミングを適切に支援できることが実証された。以上の知見および実装技術は、近い将来に遠隔操作の品質保証技術の礎を与えるものある。
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