研究概要 |
1.触覚刺激付与と音像位置調整とを組み合わせた体感音楽聴取方法 複数チャンネル録音された再生音を遠方スピーカーから聴きながら,特定チャンネルの至近音と振動触覚を付与する体感音楽聴取方法の検討を進めた.今期はその基礎検討として,ステレオ音源を用いた体感音楽聴取装置を作成し主観評価実験を行った.その結果、以下の結果が得られた.まず,リズム楽器音やメロディー楽器音がバランスよくステレオ録音されたジャズ曲1曲を用いて一対比較法を行った結果,ステレオ体感音楽聴取方法は,モノラル体感音楽聴取方法や通常の音楽聴取方法に比べ,広がり感や奥行き感を強く感じ,かつ魅力的に聴けることが確認できた.そこで,ステレオ音源を用いた体感音楽聴取法が音楽に対しどのような印象構造を持ちどのような印象因子を増幅するのか,またこれらの印象の増幅度合いは楽曲の種類によってどのように異なるのか等を把握するために,ジャズ曲、ギター曲、クラシック曲という3ジャンルの被験曲を用いたSD法による主観評価を行った.その結果,通常のステレオ音楽聴取方法に比べてステレオ音源を用いた体感音楽聴取方法は,ジャズ曲とギター曲で臨場感因子得点が増加し,ジャズ曲で輪郭感因子得点が増加するとの結果が得られた.また,「好き」といった評価語が臨場感因子と相関が強いという結果が得られた.次に、低音リズム楽器の代表であるベースについて,振動触覚が音楽聴取時にどのように作用するのかを知覚レベルおよび感性レベルで検討した.その結果,知覚レベルにおいては,i)ベース音がより明瞭に聴こえること,ii)ベース音源の位置がより近づく感じがすることを主観評価実験により明らかにした.また,感性レベルにおいては,ベースを演奏している感じをもたらしていることを明らかにした.このことは,特定演奏楽器の音像位置の調節や振動触覚の利用により演奏者感を感じながら音楽を楽しむという新たな音楽聴取設計が可能であることを示唆している.今後は、聴覚刺激と触覚刺激の配分方法など設計に結びつく定量的な検討を行う。 2.映像・音空間に触覚刺激や付加音を重畳した視聴覚コンテンツ作成・呈示方法 映像にマッチした触覚刺激とミスマッチした触覚刺激を与えた場合の映像から受ける印象の変化を検討した。具体的には、i)自動車でドライブ中のシーンに、風を前方および後方から吹きつけた場合、ii)犬の体を撫でるシーンに、毛がフサフサしたぼんぼりおよびとげとげした表面を有するボールを握った場合、の2通りについて映像の印象がどのように変化するのかを主観評価により実験した。その結果、視覚と触覚の間には共鳴現象および干渉現象があることを把握した。今後はさらに触覚刺激の種類を増やし、視聴覚と触覚刺激の相互作用を明確にしていく。
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