研究概要 |
音楽的音高の認知表象の性質を明らかにするために,音高刺激と音高シンボルを同時に被験者に提示する聴覚ストループ干渉効果の実験を行った.これまで行った実験では,音高と音高名が一致しない歌唱音に対して,発音された音高名を追唱する反応に遅れが見られるという逆ストループ効果が絶対音感保有者にのみ観察され,絶対音感保有者では音高の言語化が自動化のレベルに達していることが示唆された.しかし逆ストループ効果は試行を重ねるにつれて減少していく傾向があったので,音高と音高名が一致しない刺激に対して実験参加者が混乱を起こしたことによる可能性が考えられた.そこで今回行った実験では,音高名を答えるか,発音を追唱するかが試行ごとにランダムに変化するように設定した.その結果,音高反応における干渉(ストループ効果)と発音追唱における干渉(逆ストループ効果)の両方が観察された.この効果は絶対音感保有者だけではなく,絶対音感非保有者でも見られた.この結果は,絶対音感と相対音感の両方で,音高名の処理が自動化のレベルに達していることを示唆している.また音高と発音のどちらを反応するかが試行ごとに変化するようになっていたため,反応の遅れが見られた.これは注意の切り替えが即座になされない場合があることを示している. 音高名干渉効果の実験に続いて,音楽的音高の表象形成過程を探るため,音高シンボル(楽譜と音高名)を提示して,それが表す音高を歌唱音で産出する実験を開始した.実験は現在進行中であるが,現在まで得られた結果によると,音高刺激を聞いて音高名を答えることは正確に速くできる絶対音感保有者でも,指定された音高を産出することは必ずしもうまくできない場合があるようである.
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