洞察問題解決における潜在的情報処理の特性を明らかにするための研究を2つ行った。第1の研究では、従来から用いてきた空間的パズルを題材として、閾下刺激が問題解決過程にどのような影響を与えるかを検討した。この検討のため、被験者の問題解決過程をスクリーン上に投影し、ここにタキストスコープとプロジェクターを組み合わせたゴール状態の閾下刺激提示を行った。こうした刺激を提示された実験群と閾下刺激の提示を受けない統制群の比較を行った。その結果、問題解決時間に対して閾下刺激は何の効果ももたらさないことが示された。この結果は従来の結果とは大きく異なるのでその原因を分析した。分析の結果、実験群は制約の緩和が統制群に比べて少ないこと、またその原因は主に試行数の差に関係することが示唆された。今後は問題解決場面での自由な動きをより可能にする実験実施環境を作成し、同様の枠組みで検討を重ねる予定である。 第2の研究では、身体的動作と問題解決のパフォーマンスの検討を行った。身体的運動は認知過程の様々な側面に対して影響を与えるが、その運動はすべてコントロールされたものではない。またその運動から問題解決者は潜在的な学習を行う可能性がある。そこで第1の研究とは異なる課題を用いて身体的運動(ジェスチャー)と問題解決との関係を探る研究を行った。その結果、優れた問題解決者はそうでないものに比べてより活発に身体的動作を行うこと、そのうちの多くは問題記述そのものを身体的になぞるものではなく、問題の断片的情報から解決者自身が生成した情報を含むものであることが示された。
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