本研究課題の目標は、グラフィック表現の認知機能の研究に対して、意味論的分析の側から貢献を行うことである。 本研究課題において行っているグラフィック表現の意味論的分析の主な帰結は、ある情報を図で表現する過程において、その情報から論理的に帰結する別の情報が自動的に表現されるという性質(フリーライド特性)を多くの図がもつ、ということである。この性質は、人が図を使って論理的な推論を行うプロセスに強く影響することが考えられ、それを確かめるために、人が図を見ながら推論問題を解いているときの視線の動きを計測するという実験を、平成19年1月と平成20年1月の二度にわたって行った。 その結果、たとえ図を物理的に変形できない場合でも、人がフリーライド特性を利用しようとする傾向について、強い証拠が得られた。さらに、与えられた図が従っている意味規則が図の利用者の意味論的選好にマッチしない場合や、図のもつ特定性により、推論の前提が一意に図に表現できない場合でも、同様の結果が得られた。これは、フリーライド特性の利用が、図を使った人間の推論においてきわめて頑健で、それゆえ一般性の高いプロセスであることを示唆している。 このように、図の意味論的性質に関する研究が、人間の推論プロセスについて予測したことが心理学的な実験において確かめられたことは、グラフィック表現の認知研究における新たな研究方法の可能性を拓いたと考えられる。
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