研究概要 |
物体の物体持ち上げおよび重さ知覚における視覚情報の役割を同定し、人間が物体のどのような情報を内部モデルとして蓄え、持ち上げる力発揮運動プログラムに変換しているのか、すなわち視覚-運動系機構の解明が本研究の主たる目的である。そのためには視覚情報だけを厳密に統制し、物体重量、密度、トルク、触覚情報など、物体が有する他の物理的情報を固定することが最も重要になる。そこで、18年度には、物体の視覚情報を厳密に統制できる実験環境を構築することを目的とし、実物体に対して立体視を含む視覚情報を制御できる環境を構築した。予備実験の結果、操作物体の位置検出の精度に問題を見出し精度向上のための改善を行っている。一方、すでに構築している環境(Virtual Hand Lab System)を用いて、視覚から得られる大きさ情報が物体持ち上げ時の持ち上げ運動速度および知覚される重さに与える影響について検討した。ワークスペースに2つの立方体(30×30×30mm,30g)が吊り下げられた。基準刺激となる立法体には一辺が50mmのグラフィック立方体が重ね合わされ、比較刺激となる立法体には10mmから90mmの一辺をもつグラフィック立法体が重ね合わされた。16名の被験者が、基準刺激を持ち上げその重さを記憶し、次に比較刺激を持ち上げ基準刺激の重さと比較した。その結果、基準刺激と比較刺激の質量は等しいにも関わらず、すべての被験者は基準刺激が比較刺激よりも大きくなるほど比較刺激を「軽い」と感じる機会が多くなり、逆に比較刺激のそれが小さくなるほど「重たい」と感じる機会が多くなった。この現象はすでにCharpentier(1891)によって報告されてはいるが、(1)すべての被験者に生じること、(2)視覚の大きさ情報だけの変化で生じること、(3)視覚の大きさ情報が重量弁別機構に統合されていることなど新たな知見を見出した。
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