平成20年度においてはJump-GARCHタイプのモデルに関する実証分析とともに、資産価格の高頻度観測データを用いた実現分散の推定に関しても研究を行った。いずれの研究も金融データのボラティリティのモデル化とその実証分析に関するものである。ボラティリティはデータの背後に隠れているばらつき具合を表す潜在的な要因で、金融の実務ではリスク管理等に広く用いられているが、直接、観測できる指標ではなく統計学的な分析が必要不可欠な対象の1つである。Jump-GARCHモデルの研究では、日本、米国、中国などの株式データに適用して、その性質を調べた。このモデルでは推定すべきパラメータが多いがデータによっては意味のあるパラメータとそうでないパラメータがあることがわかり、データによってパラメータの制約を変えるなど工夫をしてパラメータ数を削減することができた。さらに予測可能性についても検証を行った。さらに、近年、1日よりも短い間隔のデータが利用可能となり、高頻度データを使った実現ボラティリティの推定問題が注目を浴びてきている。しかしながら、単純にリターン系列の2乗和を推定値とするやり方では、観測間隔が短くなるにつれて過大評価しやすくなることがよく知られている。これは、観測誤差に相当するランダムノイズが本来の株価にのっているためだと考えられている。この問題に対して、新しく分離情報最尤推定法(SIML法)という手法を提案し、その推定値の性質を調べるとともに、日経平均先物のデータに応用し、他の金融資産との相関やヘッジ係数の推定なども行った。これも潜在要因の推定といえる研究である。これらの成果をもとに国際会議等で発表を行った。
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