研究概要 |
生体運動制御の特徴は、その精緻性とロバスト性にあり、さらに生涯に亘りこれらを維持するための適応性にあると考えられる。ロボット等の機械運動制御系では、高い精緻性を有するものの、未だ実用上十分なロバスト性や適応性は実現されていない。すなわち、現在の実機制御技術では、機械系の経時・経年変化や故障に対し、制御信号を適応的に変化させ機能を最適に維持し続けることは困難である。こうした背景から本研究では、生体特有の適応運動制御機構を工学的に実現することを目指し、生体運動制御の脳内メカニズムを探り、得られた知見をロボット制御に応用することを目的とする。今年度は主に、小脳神経回路網の入出力信号変換能力、ならびに登上線維が運ぶ情報の中身の解明を目指し,小脳が関わる生体適応運動制御系として前庭動眼反射(VOR)を対象に,実験ならびにデータ解析を実施した。実験動物には金魚およびサルを用いた。両実験動物はこれまで多くのVOR研究に用いられており、解剖・電気生理学的特性ならびに眼球運動特性について高い類似性が示されている。春・秋学期中は申請者所属機関で金魚を用いた実験を行い、夏・春季休暇中に海外共同研究者のもとでサルを用いた実験を実施した。小脳神経回路網の入出力信号変換能力に関しては、最近の実験的知見における、生体適応制御の周波数選択性、方向選択性等の文脈依存性と小脳神経回路網の動的信号変換能力の関係を明らかにする結果を得た。また、登上線維が運ぶ情報の中身に関しては、登上線維が小脳に運ぶ情報とその表現様式を解析した。これらの結果は,国内学会,国際会議,学術雑誌等で発表した。
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