運動神経は、発生期に特定の筋へ投射するが、その仕組みについては不明である。pma (peroneal muscular atrophy)マウスは実験動物中央研究所で発見された自然発症の変異マウスで、先天的に腓骨筋の萎縮が見られ、その原因は発生期に神経が腓骨筋に投射しないことであると考えられている。従って、特定の神経投射のみに異常が見られるpmaマウスは、運動神経の軸索ガイダンスの分子機構を解明する上で有用なモデル動物である。本研究では、pmaの原因遺伝子を同定し、運動神経軸索ガイダンスの機構を明らかにすることを目指している。 平成16年度に、pmaマウスを用いて、運動神経特異的にEGFPを発現するトランスジェニックマウスを作成した。前年度まで行ってきた、ニューロフィラメントの免疫染色では、運動神経軸索のみならず知覚神経軸索も染色されるために、運動神経走行の詳細を見ることは困難であった。このトランスジェニックマウスでは運動神経細胞とその軸索がEGFPによって標識されるため、運動神経軸索の発達を経時的に調べることができ、上記の問題点を克服することができた。 本年度は、このマウスを用いて、胎生10日〜胎生14日にかけて蛍光蛋白で標識された運動神経軸索の走行を蛍光実体顕微鏡を用いて観察した。その結果、pmaマウスでは、胎生12日頃に下肢に向かう座骨神経束の一部に正常と異なる走行を示す繊維が見られ、運動神経軸索伸長の比較的早期に異常が現れることが明らかになった。また、既に最終的な表現型が類似することが報告されている2種類の遺伝子破壊マウスとは、神経走行の異常の詳細が異なっていることが明らかになった。 連鎖解析により決定された原因遺伝子の候補領域内に存在する遺伝子16個の発現を、RT-PCRとin situ hybridization法を用いて調べた結果、幾つかの遺伝子に関してはpmaマウスで発現が低下しているものが見つかった。これらの遺伝子に関しては、原因遺伝子の候補となる可能性があるため、今後詳細な解析を行う予定である。 本研究成果の一部は、平成18年11月に行われた国際会議The 8th AEARU Joint Workshop on Life Sciencesにおいて、英語による口頭発表並びにポスター発表で報告した。
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