脂肪酸は、体内のエネルギー状態を脳に伝えるメディエーターとして重要である。ボンベシン様ペプチド系がこの調節に関与しているのかについて、ボンベシン様ペプチド第三受容体(BRS-3)欠損マウスを用いて調べた。BRS-3欠損マウスの脳内、血中、臓器内での各種脂肪酸含量を測定した。30週齢で肥満を呈している欠損マウスでは、脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸など)濃度は血中では増加しているにもかかわらず、脳では逆た低下していた。また、長鎖脂肪酸の一つであるオレイン酸を脳室内投与すると摂食量は抑制されるが、欠損マウスではオレイン酸の摂食抑制作用が減少していた。一方、オクタノン酸の脳室内投与では、野生型・欠損マウス共に摂食量に変化は見られなかった。さらに神経細胞活性化の指標となるcFosの発現変化を観察したところ、正常マウスではオレイン酸投与時に視床下部の細胞が活性化されるが、欠損マウスでは活性化がみられなかった。また、In situ hybridization法を用いて弓状核のBRS-3発現細胞の解析を行ったところ、BRS-3発現細胞は主要な摂食促進ペプチドであるNPYやAgRP、また摂食抑制ペプチドであるCARTやPOMCのどれもほとんど発現していなかった。さらに弓状核から細胞を単離し、脂肪酸に対する反応をカルシウムイメージング法によって調べたが、BRS-3欠損マウスから単離した細胞でも、正常マウスの細胞と同様に脂肪酸に対する反応が観察された。今後は、BRS-3発現細胞に着目して実験を行う必要があると考えられた。以上のことから、BRS-3は脂肪酸による摂食量の調節に関わっており、その作用部位は弓状核であることが示唆された。この結果は、未だ不明な点が多い脂肪酸の作用機序の一端を明らかにしたもので、メタボリックシンドロームの発症機序に関連する可能性がある点でも重要であると考えられた。
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