哺乳類MAPキナーゼ(MAPK)経路の足場タンパク質は、シグナル伝達の特異性維持およびMAPKの時空間的制御に関わる因子と考えられているが、詳細については不明な点が多い。我々は、自らのグループが同定した足場タンパク質JSAP1を中心に解析を進めており、今年度の研究成果は以下の通りである。 1.発達過程および成体マウスにおけるJSAP1の発現を詳細に検討し、JNK MAPKとJSAP1 mRNAは胎仔および成体マウスにおける発現パターンが極めて類似していることを見出した。またJSAP1タンパク質は、胎仔では未分化神経細胞、および小脳の外顆粒層(EGL)で特に強く発現しており、成体マウス脳では、様々なニューロンやバーグマングリアで発現しているが、中でも小脳プルキンエ細胞で高発現していることを見出した。 2.発達期小脳におけるJSAP1タンパク質について、免疫組織化学法よる解析を行い、JSAP1は2層に分かれたEGLのうち、iEGLで強く発現しており、oEGLでの発現は極めて低いことを見出した。さらに、野生型あるいはjsap1^<+/->マウス同士を交配させた妊娠マウス(E18.5)の腹腔内にBrdUを投与し、増殖細胞(BrdU陽性)を定量的に解析した。その結果、jsap1 KOマウスでは増殖細胞(BrdU陽性)が有意に増加していることを見出した。以上の結果から、JSAP1-JNKシグナル伝達系は小脳顆粒前駆細胞の増殖を負に制御することが強く示唆された。 3.jsap1 KOマウスは、生直後、呼吸不全のために死亡することが知られている。しかし、その分子メカニズムについては不明な点が多い。jsap1コンディショナルKOマウスを用いた解析により、jsap1 KOマウスの死亡は神経系の異常に起因することが強く示唆された。 4.小脳プルキンエ細胞特異的なjsap1 KOマウスの作出に着手した。
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