研究概要 |
特定の行為を意図的に実行し、目的を達成するためには、運動のタイミングや大きさを正確に統御することが必要である。とくに、遂行中あるいは準備中の運動を、途中で変更したり、中止したりするという判断がとっさに必要とされるような場面も日常生活には多い。状況の変化に対応して素早く運動抑制するという能力は、生体の運動統御の基本的機能のひとつと考えられる。本研究課題では、運動抑制の脳内メカニズムを解明するために、古典的な課題であるstop signal課題を用いて各種手法によって検討した。stop signal課題はADHD,パーキンソン病、前頭葉障害などで異常を示し、ドパミン系や前頭前野機能を反映するとされる。stop signal課題においてはなかでも右前頭前野の優位性が指摘されているが、詳細は明らかではない。研究計画の最終年度である本年度は、昨年度に行った研究である、本課題遂行中の運動野の興奮性の変化を事象関連TMSの手法を用いて検討した実験結果(10名の正常被験者に対する実験の結果、右手の運動抑制中には、手の運動野だけではなく、足の運動野の抑制も認めた。これは、運動抑制機構では体部位局在が厳密ではなく、むしろ、全運動野を抑制しているという可能性を示唆している)を、国際雑誌に投稿して査読中である。 また、fMRIを用いて、正常被験者13名でのstop signal課題の遂行中の脳活動の評価を行った。これについても、手でのstop signal課題と足での同じ課題を比較して、運動抑制に体部位局在があるかどうかを検討中である。この結果は、いくつかの国際学会ですでに発表し、論文を投稿準備中である。 研究期間内には、脳磁図を用いた研究は予備実験にとどまっているが、今後は検討症例数を増やして、研究成果をあげることが期待される。
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