哺乳類では、純音刺激と腹側被蓋領域ドーパミンニューロンの刺激を組み合わせると、刺激に用いた純音に応答する大脳皮質一次聴覚野の領域が拡大することが知られている。このような聴覚皮質の可塑性は、音声学習の神経基盤になる可能性が考えられるが、その機構は明らかにされていない。本研究では、皮質一次聴覚野におけるドーパミンのシナプス伝達や神経興奮性調節の機構を解明することを研究目的としている。 一次聴覚野におけるドーパミンの働きを調べるにあたって、一次野の同定方法が曖昧であったことに気づいた。そこで、in vivo光計測法で、純音に対する聴覚原質広い領域の応答を電位感受性色素を用いてイメージングし、一次聴覚野を同定することにした。その結果、一次野や二次野の同定に成功しただけでなく、一次野の腹側に新しい聴覚領野の存在も見出した。この方法では複数領野の同定が可能であったため、これを用いてドーパミンが聴覚皮質応答をどのように修飾するかを調べた。多数の実験において、ドーパミンやそのアゴニストを、幾つかの方法で皮質や全身に投与した結果、顕著で一定した変化が見られなかった。そこで、聴覚皮質応答の可塑性を引き起こすもう一つの修飾系としてのアセチルコリンを皮質に投与してみた。従来報告されているように、アセチルコリンはムスカリン受容体を介して皮質応答を強く抑制した。この抑制は一次野のみならず、二次野や周辺のベルト領域まで見られた。アセチルコリン投与後にドーパミンを投与すると、抑制されていた応答が回復することが認められた。つまり、聴覚皮質においては、ドーパミンは単独では顕著な効果は示さなかったが、アセチルコリンによる抑制を抑制するような効果があることが示唆された。これは皮質における可塑性を考える上で興味深い結果である。今後この現象の細胞・分子基盤を調べていく計画である。
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