研究代表者らは、家族性大腸ポリポージス症の原因分子であるAdenomatous Polyposis Coli(以下、APC)に注目し、神経幹細胞の動態におけるその役割を詳細に解析することで、成体脳内における幹細胞能の維持や増殖・神経分化の調節メカニズムを解明しようとする研究を企図した。 平成18年度には、成体脳神経幹細胞におけるAPC及びWntシグナリングに関する諸分子の発現解析とWntシグナリング活性化に対する反応の検討を行った。さらに、成体神経幹細胞選択的にAPCを欠失させた動物モデルを確立した。 1)成体脳幹細胞におけるAPCおよびWnt-β catenin pathwayに関わる諸分子の発現の解析。 in vivo成体脳幹細胞ニッチェならびにin vitro成体脳幹細胞でAPC及びそのホモログであるAPC2の発現がみられた。また幾つかのWntリガンドとそのレセプター、β cateninを初めとする細胞内情報伝達分子の発現も観察され、成体脳幹細胞におけるAPCおよびWntシグナリングの存在が示唆された。また、成体脳幹細胞を追跡する目的でGFAP-Cre-GFP-reporterマウスを作製した。in vivoおよびin vitroの両方でGEPが成体幹細胞系譜の細胞で発現していることを確認し、細胞ソーティングによる幹細胞の純化を行った。 2)Wntシグナリング活性化が神経幹細胞の動態に与える影響。 in vitro成体脳幹細胞を用いてWntシグナリング活性化の幹細胞動態に与える影響を検討した。Wntリガンドの1つであるWnt3aによりβ cateninの核内移行がみられ、成体脳幹細胞でいわゆるcanonical pathwayの活性化が起こることが示された。一方、Wnt3aの投与により成体脳幹細胞の増殖能はごく軽度の増加がみられるのみであったが、神経分化は有意に増加することが観察された。 4)成体神経幹細胞APC欠失マウスモデルの作製。 GFAP-CreマウスとAPCコンディショナルマウス(がん研究所野田哲生氏より恵与)を掛け合わせ、成体神経幹細胞でAPCの欠失したマウスモデルを確立した。このマウスにおいて脳内におけるAPC遺伝子の組換えを確認した。形態的には嗅球と小脳の発育異常が示唆され、現在さらなる検討を行っている。
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