必須アミノ酸トリプトファンの中間代謝産物キノリン酸によって誘発される神経細胞死のメカニズムを明らかにする目的で、キノリン酸代謝酵素QPRT遺伝子ノックアウトマウスの作出を試みた。実験モデルの有用性は、QPRT欠損によってトリプトファン代謝産物のひとつで神経毒性を持つキノリン酸(QA)の生体内濃度、特に脳内濃度が上昇する危険性があり、これが神経細胞変性疾患のモデルになりうる点である。QPRT遺伝子構造の解析、ノックアウトベクターによる組み換え、組み換え型マウスES細胞の選別に成功した。このES細胞を胚盤胞に導入しキメラマウスの作出に成功した。しかし、複数のキメラマウスを繰り返し産出したにもかかわらず、組み換え遺伝子が生殖細胞系列に移行したマウスを得ることができなかった。現在、再度、キメラマウス産出を試みると共に、生殖細胞系列への移行を妨げる特別な原因の有無を究明中である。 このため研究方針を一部変更し、キノリン酸による神経細胞死のメカニズム解明のモデルとして、ハンチントン病(HD)マウスを用いて検討を進めることにした。卵巣移植済の6週齢雌ハンチントン病トランスジェニックマウス(系統名: B6CBA-Tg(HDExon1)62Gpb/1J stock No:002810)を用いた。QA生成に関わる3-HAOの活性は肝臓の方が腎臓よりも7〜8倍程度高く、週齢による有意な差は観察されなかった。正常マウスとHDマウスを比較すると、両臓器、両週齢ともHDマウスで活性が上昇しており、11週齢の肝臓においては有意(P<0.05)に上昇していた。 QA生成を抑制するACMSDの活性は腎臓の方が肝臓よりも高く、週齢による有意な差は観察されなかった。正常マウスとHDマウスを比較すると、両臓器、両週齢ともHDマウスで活性が低下しており、8週齢、11週齢の肝臓においては有意(P<0.05(8週齢)、P<0.01(11週齢))に低下していた。 QAを消去するQPRTの活性は肝臓の方が腎臓よりも3〜4倍程度高く、週齢による有意な差は観察されなかった。正常マウスとHDマウスの比較でも有意な差は観察されなかった。
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