前年度においては、主として株細胞系において立証したナトリウムイオン仮説を、本年度は動物由来の組織によって立証した。脳室周囲器官(特に脳弓下器官)由来の組織を野生型マウス及びNax遺伝子欠損マウスから単離し、蛍光グルコースイメージングを行った。結果、野生型マウスの器官は細胞外ナトリウム濃度に依存してグルコース取り込み能が上昇したが、Nax遺伝子欠損マウスの器官は、そのような能力が欠損していた。グルコースの取り込みは脳室周囲器官のグリア細胞に観察された。また乳酸の放出量もNax遺伝子依存的であった。電気生理学的手法を用いて脳室周囲器官の神経細胞の活動を観測したところ、乳酸はGABA神経細胞の活動を上昇させることが明らかとなった。さらには、細胞外ナトリウムイオン濃度の上昇は同GABA神経細胞の活動を上昇させることが野生型マウスで観察され、Nax遺伝子欠損マウスでは観察されなかった。すなわち、前年度からの実験結果とも合わせて考えると、グリア細胞上に発現しているNaxナトリウムチャンネルは、細胞外のナトリウムイオン濃度の上昇を検出して開口し、細胞内にナトリウムイオンを流入させ、グリア細胞内のNaKポンプの活性化を行う。活性化されたNaKポンプはグリア細胞の代謝活性を上昇させ、乳酸の放出を促進させる。放出された乳酸は周囲のGABA神経細胞の活性化を引き起こし、結果として塩分摂取行動を抑制するものと考えられる。
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