神経栄養因子類は神経細胞の生存・分化・シナプス機能の亢進を行う神経系の成長因子であり、その生理作用とレセプターを介したシグナル伝達機精の研究が世界的に進展している。しかし、神経栄養因子自身の分泌と細胞内輸送のメカニズムについては研究が遅れている。その理由のひとつは、神経栄養因子自身の発現量が少ないため解析が困難なことにある。 研究チームも長年神経栄養因子BDNF(Brain-derived neurotrophic factor)を研究しているが、この分子についても分泌と輸送のメカニズムはほとんど解明されていない。しかし、研究チームは、BDNFのプロドメインに相互作用する分子群のプロテオミクス解析の予備データを基にして、本プロジェクトを提案し、本年度は以下の研究を進めてきた。 第一は、バルセロナ大学のAldrichらとの共同研究において、BDNFプロドメインに相互作用しうる神経疾患原因遺伝子産物Huntintin(htt)に注目し、ポリグルタミン酸が付加された変異型htt(m-htt)がBDNFの分泌に著しく影響することをBDNF-GFPプローブを持ちいたイメージング研究により明らかにした。ここで期待していたことは、Met型BDNFはさらにm-httによってその分泌能を低下させることであったが、これについてはネガティブであった。つまり、m-httはMet変異に関係なくBDNFの分泌に影響する。さらには、プロドメインに相互作用しうる分泌制御タンパク質ソルチリンとBDNF分泌の関係をアッセイするELISAを進めてきた。しかし、その制御分子の効果についての正確な答えはまだ得ていない。
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