平成18年度より基盤研究(C)の交付を受けた本研究課題は細胞間接着因子であるL1-CAMの発現変化、主にL1-CAMの翻訳後の調節が末梢神経損傷後に引き起こされ、神経因性疼痛に関与する事を明らかにする事を目的として研究を遂行してきた。研究目的は技術的な限界を除いてほぼ達成され、かつ関連因子の動態を知る事等の予備的な研究の萌芽をもたらした。具体的には末梢神経損傷によって後根神経節内でL1-CAMの局在変化を介した新規接着パターンが形成され、それによってMAP kinaseの一つであるp38のリン酸化がひきおこされる事、脊髄後角の侵害入力の伝達路でL1-CAMのシナプスへの局在誘導が末梢神経損傷によって惹起され、疼痛の病態に関与している事を見いだした。本研究課題によって細胞間接着の変化という神経因性疼痛の新規の病態概念を提唱する事ができたのみならず、その変化がどのようなメカニズムでおきているのか、また結果としてどのような変化につながっていくのかを探求する次の段階の研究の端緒となる成果をもたらした。
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