研究概要 |
本年度は二種類の中枢神経系の損傷モデルマウスを用いて軸索再生の研究を行った。 1.視床下部弓状核における神経再生 金硫化グルコース(GTG)をマウス腹腔内に投与すると、視床下部内側底部が破壊される。GTGの破壊によって、弓状核のNPYニューロンの軸索は切断されるが、2週問後には損傷部を越えて再生するNPY線維が観察された。GTG投与動物では損傷部周辺で反応性アストロサイトは増加していたが、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンの増加や繊維性癒痕の形成は見られなかった。視床下部弓状核は中枢神経系で例外的に軸索再生が起こる領域であるが、その理由は再生阻害因子である繊維性癩痕が形成されないことにあると考えられた(Homma, Kawano et al., J.Comp.Neruol.,499:120-131,2006)。 2.コンドロイチン硫酸プロテオグリカンは再生阻害因子か? 中枢神経系では損傷後の軸索再生は困難である。その理由として、損傷部周辺にコンドロイチン硫酸プロテオグリカンが増加し、再生を妨げることが一般に信じられている。そこで、コンドロイチン硫酸(CS)を分解する酵素であるコンドロイチナーゼABC (ChABC)を黒質線条体ドーパミン神経路を切断したマウスの損傷部に注入した。すると今までの報告通り、損傷部周辺のCSの増加が抑えられるとともに、中脳ドーパミン線維が損傷部を越えて再生した。しかし、損傷部における繊維性癩痕の形成について調べると、ChABC投与動物では繊維性癒痕が形成されないことを見いだした。損傷部で増加するCSは、神経再生に阻害的に働く繊維性癩痕の形成に関与することが示唆された(Li, Sango, Kawano et al., J.Neruol.Res.,85:536-547,2007)。 以上の研究結果は、以前われわれ(Kawano et al., J.Neurosci.Res.,80:191-202,2005)が提唱した、「繊維性癒痕が中枢神経系における軸索再生の阻害因子である」ことを支持している。
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