研究概要 |
本年度は二種類の中枢神経系の損傷モデルラットを用いて軸索再生の研究を行った。 1.脳の損傷部への細胞移植による神経再生の促進 ラットの黒質線条体ドーパミン神経路を幅2mmのナイフで切断し、新生仔ラット嗅球より採取し、培養した髄鞘化グリア細胞(OEC)を損傷部に移植した。損傷後2週間の脳では、切断されたドーパミン線維は損傷部を越えて再生することはなく、損傷部にIV型コラーゲンを含む繊維性瘢痕が形成されていた。それに対し、OECを移植した脳では多くの再生線維が損傷部を越えて伸長していた。損傷部はOECで満たされており、繊維性瘢痕は形成されていなかった(Teng et al.,2008印刷中)。 2.下位胸髄のレベルでラット脊髄に損傷を加え、OECを移植した。OEC移植により下肢の運動機能に著しい改善がみられた。組織的には脊髄の下行性(運動性)および上行性(知覚性)の線維が損傷部を越えて再生していた。さらに損傷部では通常形成される繊維牲瘢痕の形成が抑制されていた。 OEC細胞の移植はもっとも有望な脊髄損傷の臨床的治療法と考えられ、すでに世界各国でヒトへの応用が始まっている。しかしこれまで、OECの移植による神経再生促進のメカニズムは不明であった。今回の結果は、以前からわれわれが提唱している「繊維性瘢痕が中枢神経系における軸索再生の阻害因子である」こと(Kawano et al.,2005;2007;Li, et al.,2007)を支持するとともに、OEC移植による脊髄損傷の治療法に理論的根拠を与える意味でも極めて重要な意味がある。
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