研究概要 |
われわれは中枢神経系で再生を阻害する因子として、損傷部の組織修復過程で形成されるIV型コラーゲンを含む繊維性瘢痕に注目してきた。その理由は、(1)神経再生が起こる新生仔マウスでは繊維性瘢痕の形成が見られず、また、(2)IV型コラーゲンの合成を阻害するDPYを注入すると繊維性瘢痕が消失するとともに神経再生が起こるからである(Kawano et al.,2005)。そこで、(3)脳内でも例外的に神経再生が起こること報告されている視床下部弓状核のNPYニューロンの軸索を切断ししたところ、NPYニューロンの軸索が損傷部を越えて再生し、この場合にも損傷部に繊維性瘢痕は形成されていなかった(Homma,Kawano et al.,J.Comp.Neurol.,2006)。 一般には、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンが中枢神経系における主要な再生阻害因子と考えられている。その有力な根拠はコンドロイチン硫酸を分解する酵素であるコンドロイチナーゼABCを損傷部に投与すると軸索再生が起こるからである。そこで、(4)コンドロイチナーゼABCをマウス脳の損傷部に投与したところ、軸索再生が起こることを観察したが、同時に繊維性瘢痕が消失することを見いだした(Li,Kawano et al., J. Neurosci. Res., 2007)。 以上、4種の脳損傷モデルでは、いずれも繊維性瘢痕が形成されない状況で神経再生が起こっていた(Kawano et al., 2007)。この一連の研究成果は、繊維性瘢痕が中枢神経系における主要な再生阻害因子であることを示している。
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