樹状突起の形態変化を制御する蛋白質の一つであるデルタカテニンの機能を解析した。培養神経細胞にデルタカテニン遺伝子を導入すると培養初期の幼若神経細胞では多数のフィロポディアを誘導するが成熟した神経細胞ではこの現象は観察されない。しかし、デルタカテニンのPDZ結合ドメインを欠損した変異体(DPDZ-BD)を導入すると成熟神経細胞でも多数のフィロポディアを誘導することができる。そこで、本研究ではシナプスの形態変化におけるデルタカテニンPDZ結合ドメインの役割を解析した。 まず有効なデルタカテニンのshRNAを作成し、幼若神経細胞に導入した。個々の細胞の内在性デルタカテニンの発現を抑制すると細胞のフィロポディアの数が減少した。このことからデルタカテニンは神経細胞の突起伸展に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。次にDPDZ-BDを成熟神経細胞に導入し、誘導されるフィロポディアの性質を解析した。突起伸展の様子を導入後18時間後から経時的に解析した結果、誘導されたフィロポディアは樹状突起のシャフトより新たに出現するものと、既存のスパインがフィロポディアに変化するものとが観察された。導入後48時間後にはフィロポディアは消失し、成熟したスパインのみが観察された。そこで、デルタカテニンのPDZ結合ドメインと結合する蛋白質を解析したところPSD-95のPDZ2ドメインと結合することが明らかとなった。そこでデルタカテニンのPDZ結合ドメインの合成ペプチド、あるいはPSD-95のPDZ2の遺伝子を神経細胞に導入し内在性のデルタカテニンとPSD-95との結合を阻害すると新たなフィロポディアが誘導された。このことからデルタカテニンとPDZ結合部位の標的蛋白質との相互作用がデルタカテニンの突起伸展能を制御している可能性が示唆された。
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