本研究は、マウスの中脳ドーパミンニューロンの発生誘導、形質分化、成熟、機能発達の正常メカニズムを明らかにして、パーキンソン病をはじめとする中脳ドーパミンニューロンの変性や発達障害に起因する様々な神経疾患の予防や神経再生医療など新しい治療法の開発に対して有益な基礎的知見を提供することを目的としている。特に黒質ドーパミンニューロン(A9)と腹側被蓋野ドーパミンニューロン(A10)の新規識別マーカー分子の発見を最大の目標として、C2H2型Zincフィンガー因子に焦点を当てて、マウス胎仔期の中脳ドーパミンニューロンに発現するC2H2型Zincフィンガー因子の探索を試みた。C2H2型Zincフィンガー因子については、BTBドメインまたはKRABドメインまたはSCANドメインを有して、主として転写抑制因子として機能すると考えられるC2H2型Zincフィンガー因子の遺伝子をマウスゲノム上から458個抽出した。458個の遺伝子に対して特異的プローブをプロットしたDNAチップを独自に作成して、マイクロアレイ解析によりマウス胎仔中脳のドーパミンニューロンに発現するC2H2型Zincフィンガー遺伝子を探索した。その結果、10個のZincフィンガー遺伝子が新規識別マーカーの候補として浮上した。遺伝子発現様式の解析によっていずれの遺伝子もマウス胎仔中脳において高発現を示す遺伝子であることが示された。しかし中脳領域においてドーパミンニューロンに特異的な発現を示すものではなかった。10個の各候補分子を培養細胞に強制発現させて各分子の細胞内局在を解析したところ、ほとんどの分子が核内に局在することが示された。本実験で浮上した新規識別マーカー候補分子の詳細な時空間的発現様式を解析してA9とA10ニューロン間の相違を示すことが重要課題である。さらに、各遺伝子の生理機能の解明が中脳ドーパミンニューロンの分化・成熟のメカニズムの理解につながるものと考えられる。
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